「マダムと女房」

 日本映画で最初の本格的なトーキーとなった記念碑的な作品である。1931年の松竹蒲田製作で、監督は五所平之助。猫の鳴き声やジャズ演奏など音をテーマに、東京郊外の新興住宅に引っ越してきた劇作家を主人公とする軽快な小市民喜劇になっている。キネマ旬報ベスト・テン第1位。京都文化博物館で開催中の特集上映「【日本映画120年記念企画】古典・名作映画のススメ①」で鑑賞した。

 劇作家の芝野新作(渡辺篤)は締め切りが迫っているにもかかわらず、脚本の執筆が一向に進まない。原因は、天井裏のネズミの足音や赤ちゃんの泣き声などにより集中力を欠くことにあった。そこへ、隣家から大音量のジャズ演奏が聞こえてきた。怒り心頭に発した新作は怒鳴り込みに行くが、出てきたのはモダンなマダム(伊達里子)。新作は抗議できずに、そのままマダムに取り込まれ、自らもジャズ演奏に興じてしまう。

 新作の家の窓から、新作とマダムが楽しそうに話しこんでいるのを見た女房(田中絹代)はやきもちを焼く。しかし、この出来事が新作にプラス効果をもたらした。ジャズに感化された新作は家に戻ってくると、猛烈なスピードで脚本を書き上げていくのだった。女房の機嫌もなおり、新作一家が足取りも軽く近所を散歩しているところで映画は終わる。

 女房役の絹代が、夫の新作に呼びかける「ねぇ、あなた」の甘ったれた声が当時の男性ファンを魅了し、流行語になったことは有名だ。

 監督の五所は、いわゆる「蒲田調(大船調)」の先駆者である島津保次郎の門下。五所は絹代の持ち味を引き出すことに定評があり、絹代を主役にいくつもの優れた作品を残した。絹代を語るときには絶対に欠かせない監督である。

 ただ、この「マダムと女房」の女房役は当初別の女優がつとめており、撮影も進んでいたのだが急きょ降板。ピンチヒッターを頼まれた絹代は自分の下関なまりを理由に出演をしぶったが、五所に口説かれ、最後は窮地に同情したようである。絹代が心配した下関なまりは、愛嬌があると、好評を博したのだった。

 

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新作星取表2017-6

【日本映画】
「咲ーSakiー」★★★★
「サバイバルファミリー」★★★★
「相棒ー劇場版Ⅳー」★

【外国映画】
「ザ・コンサルタント」(米)★★★
「王様のためのホログラム」(米)★★★
「たかが世界の終わり」(加=仏)★★
「マリアンヌ」(米)★★★★★


【採点基準】
★★★★★  90点~100点
★★★★    80点~89点
★★★     60点~79点
★★       40点~59点
★         0点~39点


 「マリアンヌ」は、第二次世界大戦中の仏領モロッコ・カサブランカで出会った英国の諜報員と仏レジスタンスの男女の愛をサスペンスフルに描いた秀作である。主演はブラッド・ピットとマリオン・コティヤール。監督はロバート・ゼメキス。

 諜報員のマックス(ピット)とレジスタンスのマリアンヌ(コティヤール)は現地でドイツ大使を暗殺する任務を遂行する。2人は恋におち、英国で結婚し、子も授かった。ところが、マリアンヌにナチスドイツのスパイ疑惑が持ち上がる。

 往年のハリウッド映画の雰囲気が漂い、しっかりした内容で、ストーリーも面白い。サスペンスという点ではもっと盛り上げることができたように思えるところがあり、少し物足りないが、全体的には高く評価できる。

 「サバイバルファミリー」は矢口史靖監督の異色のロードムービーだ。ある日突然、大規模な停電が発生し、水道、ガスなども完全にストップ。インターネットは全くつながらず、交通機関もマヒし、都会の生活は大混乱に陥った。そんななか、都内のマンションに住む夫婦と2人の子供の平凡なサラリーマン一家が、妻の故郷の鹿児島に自転車で向かう。夫婦役は小日向文世と深津絵里。

 この映画も「シン・ゴジラ」と同じで、東日本大震災や阪神・淡路大震災を経験しているだけにいろいろな場面でリアリティーがあった。家族の絆がテーマになっていて、エピソードのつながりや全体の構成など矢口監督の手腕が光る。一家は長期にわたって極限状態に近い生活を強いられるのだが、そのわりに、小日向の顔がやつれていないのがちょっと気になった。

 「咲ーSakiー」はノーマークでサプライズの1本。麻雀に打ち込む女子高生たちの青春を描く小林立の人気漫画の実写映画化である。全国大会出場をかけての団体戦の長野県予選決勝に焦点を当てている。1チーム5人のメンバーがそれぞれ半荘戦を繰り広げ、チームの最終的な持ち点を競う。女子高生と麻雀というギャップが面白いのだが、登場人物のキャラクターがとにかくユニーク。大人向けの映画ではないものの、内容は斬新で、十分楽しめた。小沼雄一監督。

東陽一監督作品マイベスト5

 大阪・九条のシネ・ヌーヴォで開催されている「東陽一映画祭」が大詰めを迎えた。今回の特集上映により、東監督の劇映画は最初の「やさしいにっぽん人」(1971年)から最新作の「だれかの木琴」(2016年)まで、大半を鑑賞することができた。「だれかの木琴」については昨年の公開時にも観ている。この他、本土復帰前の沖縄の日常をルポルタージュし、自主上映活動で大反響を巻き起こした「沖縄列島」(1969年)なども鑑賞した。そこで、東監督作品のマイベスト5を発表する。

 マイベスト5は以下の通りだが、第1位の「四季・奈津子」(1980年)、第2位の「もう頬づえはつかない」(1979年)、第3位の「サード」(1978年)は差がなく、とりあえず順位をつけたにすぎない。「サード」だけは数回目の鑑賞だったため、今回観た印象では「四季・奈津子」「もう頬づえはつかない」に比べて、ちょっと弱かっただけのことである。


 第1位 「四季・奈津子」(1980年、東映=幻燈社)
  出演者=烏丸せつこ、阿木耀子、佳那晃子、本田博太郎、風間杜夫

 第2位 「もう頬づえはつかない」(1979年、あんぐる=ATG)
  出演者=桃井かおり、奥田瑛二、森本レオ、伊丹十三、加茂さくら

 第3位 「サード」(1978年、幻燈社=ATG)
  出演者=永島敏行、吉田次昭、森下愛子、島倉千代子、峰岸徹

 第4位 「わたしのグランパ」(2003年、テレビ朝日=ホリプロ=シグロ=東映ビデオ)
  出演者=菅原文太、石原さとみ、平田満、宮崎美子、浅野忠信

 第5位 「化身」(1986年、東映)
  出演者=藤竜也、黒木瞳、阿木耀子、淡島千景、三田佳子

衝撃の北朝鮮・金正男暗殺情報 やはり外交・安全保障が重要

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄である金正男(キム・ジョンナム)氏が暗殺されたとのニュースが世界に衝撃を与えている。

 マレーシアの首都クアラルンプールの空港で、北朝鮮の女工作員2人に毒針のようなものを刺され、絶命したとの情報も伝えられている。いまだに、こんな映画さながらの話があるとは本当に驚きで、改めて、北朝鮮の異常さ、脅威を強く認識せざるを得ない。

 金正男氏は故金正日(キム・ジョンイル)総書記の長男で、一時は正日氏の有力後継者と目されたこともある人物。小泉純一郎政権発足直後の2001年5月にドミニカ共和国の偽造旅券を所持して日本に不法入国しようとし、成田空港で身柄を拘束される騒動を起こしたことで有名だ。東京ディズニーランドに行くのが目的だったという。これにより、後継レースから脱落したとも言われる。

 金正男氏は、金正恩委員長が2013年12月に処刑した当時北朝鮮のナンバー2とみられていた叔父の張成沢(チャン・ソンテク)氏が後ろ盾だったとされ、故金日成(キム・イルソン)、正日、正恩の3代世襲に批判的な発言もしていた。すでに北朝鮮の政治に関わっていないとの見方が有力で、正恩委員長とどんな関係になっていたのかは不明。最近は東南アジアでその姿を目撃したとの情報があった。

 こうしたニュースに接すると、トランプ米大統領と安倍晋三首相による初の日米首脳会談で、同盟関係の強化を確認したことは大きな意義があったように思う。私は自民、公明両党の連立政権が続くことには反対の立場だが、自民党政権は基本的に支持している。それは、先の民主党政権をみてわかるように、現状では自民党政権以外の場合、外交・安全保障面での不安を拭えないからである。望ましい政治体制は、自民党と交互に政権を担えるような勢力ができることだが、政権を持続させるためには、外交・安全保障は最大の課題になるだろう。

新作星取表2017-5

【日本映画】
「破門 ふたりのヤクビョーガミ」★★★★
「キセキーあの日のソビトー」★★★
「君と100回目の恋」★
「傷だらけの悪魔」★★★★

【外国映画】
「ホームレス ニューヨークと寝た男」(オーストリア=米)★★★★


【採点基準】
★★★★★  90点~100点
★★★★    80点~89点
★★★     60点~79点
★★       40点~59点
★         0点~39点


 「傷だらけの悪魔」は全く期待せずに鑑賞したが、面白く、サプライズがあった。澄川ボルボックスの同名漫画の実写映画化。主人公の葛西舞は東京から栃木県の田舎町に転校してきた女子高生だ。見た目の感じはよく、協調性もありそうなキャラクターだが、待ち受けていたのは壮絶ないじめだった。

 転校先の同じクラスに思わぬ生徒がいた。中学時代に舞のグループにいじめ抜かれ、転校を余儀なくされた小田切詩乃である。復讐に燃える詩乃は舞を陥れ、転校早々、評判をガタ落ちにさせる。舞は連日、陰湿極まりないいじめを受けることになる。担任の女性教師も自分のクラスでいじめがあることを表ざたにしたくないため、見て見ぬふりをする。

 この舞がタフな神経の持ち主で、各個撃破のような形でいじめる相手に反撃に転じていくところが痛快だ。舞役を演じたのは足立梨花だが、はまり役といってよく、見事だった。私が特に優れていると思ったのは、女子高生たちによるクラス内での有利なポジションを求めての主導権争いであっても、「昨日の友は今日の敵」とばかりに、何かのきっかけで、オセロゲームのようにたちまち形勢が逆転してしまう恐ろしさを話の軸に据えていたことである。全体を貫くトーンとして斬新さと力強さも漂っていた。山岸聖太監督。

 「破門 ふたりのヤクビョーガミ」は黒川博行の直木賞受賞作の映画化。強面のヤクザ・桑原(佐々木蔵之介)と、亡き父がヤクザだった関係で桑原と交流のある建設コンサルタントの二宮(横山裕)が、映画製作のための出資と称して大金をだまし取り逃亡した映画プロデューサー(橋爪功)を追いかけていく内容で、ジャンルはコメディーに近い。

 佐々木蔵之介のヤクザ役がなんといってもうまかったし、二宮の事務所に出入りして手伝ういとこ役の北川景子、橋爪功といった脇を固めるメンバーも実にいい味を出しており、観やすくて、ぐいぐいと引き込まれた。大阪が舞台で、なんばパークス近くやあべのハルカスなどがロケ地になっているのも、大阪人には楽しめる。十分合格点を与えられる出来だと思う。小林聖太郎監督。
プロフィール

Author:佐藤安律
(さとう・やすのり)
1965年生まれ。大阪市立大学法学部卒。産経新聞記者として20年7カ月勤務し、政治部、夕刊フジ、大阪経済部などに所属。政治部では、厚相時代の小泉純一郎元首相、元自民党幹事長の野中広務氏らを担当した。産経新聞の年間連載「こども大変時代」で、取材班としてファイザー医学記事賞優秀賞を受賞。2011年7月末に依願退職して独立。大阪市在住。得意分野は日本映画、政治、医療問題。原稿の依頼などコンタクトはyasunori7373@yahoo.co.jp

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