「秋立ちぬ」

 親たちの勝手な事情で傷ついた小学生の男女の子供を主人公とした巨匠・成瀬巳喜男監督の小品の佳作である。1960年の東宝作品。2人の子供のひと夏の出会いと別れを描いた。舞台は東京の築地川界隈。成瀬は1918年、築地の工手学校に入り、20年に卒業している。成瀬にとって思い入れの強い場所がロケ地となった作品だ。脚本は、笠原良三のオリジナル。

 小学校6年生の秀男は、母(乙羽信子)に連れられて、信州の上田から八百屋を営む親類を訪ねて上京してきた。秀男は親類の家で母と一緒に暮らすものだと思っていたが、生活は苦しく、母は最初から旅館に住み込みで働き、別れて暮らすつもりだった。その母はすぐに常連客の男(加東大介)と懇意になり、秀男を残して駆け落ちしてしまう。

 秀男は母と親類の家に初めて行く時、橋の上で着物姿の女の子と出会っている。順子という名の小学校4年生の子供で、秀男の母が住み込みで働く旅館の女将(藤間紫)の一人娘だった。女将は大阪に在住する旦那(河津清三郎)に囲われている身で、順子の父はこの旦那。順子は父に懐いていたが、父と正妻の間にできた2人の子に冷たくされ、自分の置かれている状況を理解し出す。

 秀男と順子は意気投合し、よく百貨店(松坂屋)の屋上で、ちょっとしたデートのようなひと時を楽しんだ。秀男が海を見たいと言っていたので、2人はある日、晴海の埠頭まで出かけた。夜遅くまで帰宅せず、警察に保護されるのだが、結果的に、これが2人の別れとなった。順子は夏休みの宿題である標本作りのためにカブトムシを欲しがっていた。カブトムシを入手した秀男は喜び勇んで、旅館を訪ねた。しかし、大阪の愛人によって旅館は売却され、すでに順子と母の旅館の女将は引っ越していた。行き先はわからない。

 映画は、秀男がカブトムシを持って思い出の百貨店の屋上に行き、東京湾を眺めているところで、成瀬作品らしく終わる。ラストは、小栗康平監督の「泥の河」(1981年)と少し似ている。撮影場所の百貨店・松坂屋は2013年に閉店になった。

 過去に一度観ており、2回目の鑑賞。今回は京都文化博物館の特集上映「【映画日本百景】東京の変遷」で鑑賞した。この作品は1960年、黒澤明監督の「悪い奴ほどよく眠る」と併映公開された。
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「沈丁花」

 個人開業の歯科医院を舞台に、4人姉妹のうち婚期を逃した長女と次女の結婚騒動をコメディータッチで描いた千葉泰樹監督による1966年の東宝作品。大映の京マチ子が歯科医の長女・菊子、東宝の司葉子が助手の次女・梅子を演じた。菊子の結婚を特に心配する母親・あき役に杉村春子。原作・脚本は松山善三。脚色に千葉泰樹。松山夫人でもある高峰秀子が衣装監修をつとめている。

 歯科医だった父の死後、跡を継いだ菊子。母と3人の妹たち、大学生の弟との一家6人の生活は、菊子の働きがあってこそ成り立ってきた。三女の桜(団令子)と四女のあやめ(星由里子)はすでに嫁いだ。母・あきは、苦労をかけた菊子に1日も早くいい相手を見つけて、結婚してほしいと願っている。

 菊子と梅子の美人姉妹が切り盛りする歯科医院を、それぞれ思惑があって患者として訪ねてくる3人の男たち。美人姉妹と彼らとの恋、すれ違いの物語になっていく展開は新鮮だ。さすが、松山善三の脚本だけのことはあると感心した。3人の男たちを演じるのは、宝田明、仲代達矢、小林桂樹。持ち味が違う俳優3人が演じた男たちのキャラクターが面白い。

 京マチ子のコメディエンヌとしての力量が抜群であることは言うまでもない。この映画では徹底したコメディエンヌぶりという役柄ではないものの、仲の良い次女の妹と一時ライバルになりかかり、最後は仲代達矢扮する大学教授に恋し、いじらしい女心をみせる結婚適齢期の過ぎた長女を軽快に演じてみせた。司葉子も、明るく、活発な次女役をコミカルにこなし、うまかった。華やかでユーモアセンスも十分、作品は見事な出来だった。

 大阪・九条のシネ・ヌーヴォで上映中の「名画発掘シリーズ 女優・京マチ子」で鑑賞した。最近、京マチ子こそ、総合的にみて日本映画史上最高の女優ではないのかと思うことが多い。今回のシリーズで上映された京マチ子主演作品は4本のみ。このうち2本は鑑賞できなかったが、一度、大型の「京マチ子映画祭」をやってもらいたい。

 

 

夕刊フジでの永田町取材の思い出

 リオデジャネイロ五輪の閉会式では、艶やかな着物姿で安倍晋三首相に負けず劣らずのパフォーマンスをみせた小池百合子・東京都知事。こちらはサプライズを狙ったわけではなく、次期開催都市のトップとして、恒例の五輪旗引き継ぎ式に臨んだまでのことである。いよいよ、課題山積の都政に腕を振るうことになる小池氏だが、「都議会のドン」とも公約通り、毅然と戦ってもらいたい。

 さて、その小池氏が27日付(26日発行)の夕刊フジで「強く、そしてしなやかに」と題する新たなコラムの連載を開始した。1回目はリオ五輪を視察し、参考になったことなどを紹介している。

 夕刊フジが連載する政治家コラムには、これまで数々の大物が登場している。私は夕刊フジに2000年5月から1年2ヵ月在籍し、政治を担当したのだが、前にも書いたように、隔週掲載で小泉純一郎元首相のコラムを受け持った。小泉氏は、私が産経新聞政治部で厚生省を担当していた時の大臣で、すでに面識があった。コラムは小泉氏の首相就任とともに終わった。

 石原伸晃経済財政・再生相のコラムも夕刊フジにいる時に担当した。石原氏はコラムの取材を通じて初めて知り合った。記憶が定かでないのだが、石原氏が第1次小泉内閣で初入閣して継続できなくなったのか、私の人事異動があってのことだったか、どちらにしてもコラムの担当は短期間で終わった。その後、石原氏は数々の重責を伴うポストを歴任し、すっかり忘れているだろうが、私の顔を見たら、少し思い出してくれるかもしれない。

 きょうは、夕刊フジでの懐かしい思い出を簡単にお話したい。当時、夕刊フジでは、産経新聞政治部からローテーションで配属された記者と、夕刊フジプロパーの記者の2人がコンビを組んで永田町の取材をしていた。前者の記者は通常1年で交代するが、私の場合、前任者にイレギュラーな異動があって、1年2カ月となった。

 この期間は、小渕恵三氏が現職の首相のまま脳梗塞で倒れて森喜朗政権に交代した直後から、小泉政権が誕生して間もなくまでの時期に当たる。大半は森政権である。森政権は当時の自民党実力者の密室5人組の謀議で誕生したと発足早々批判を受け、解散・総選挙前の「神の国発言」、加藤紘一と山崎拓の両氏が森首相に反旗を翻した「加藤の乱」、「えひめ丸事故」が発生して一報を受けた休日中の森首相がゴルフを続行した問題、さらに都議選や参院選を前に森首相のもとでは戦えないという声が湧き起っての「森おろし」、ポスト森の自民党総裁選と、年中、政局のような状態だった。

 森首相が次から次へと夕刊紙が飛びつくような話題を提供する形となり、夕刊フジもほぼ連日、政治のネタをトップで報じた。私とコンビを組んだ夕刊フジのプロパーの記者は、取材先との人間関係を大切にし、裏社会の情報にめっぽう強く、いろいろと教えられることが多かった。私が、産経に在籍した20年7カ月の間に出会った同僚の中で、最も優秀な記者の1人である。上司の報道部長は産経社会部で警視庁キャップを務めた事件記者出身で、政治部のデスク経験もあり、この時に私は面識ができた。エネルギッシュで、理解が早く、波長が合った。森政権時代の夕刊フジの報道は独自性があって、手前勝手になるかもしれないが、永田町でなかなか評判がよく、定点観測している都内の売店からあがってくる日々の販売成績も上々だった。やはり、組織でいい仕事をするには、上司、同僚に恵まれるのが一番だ。

 大手新聞社や通信社、NHKの政治部記者たちは、自民党なら幹事長番、政調会長番、各派閥など、官邸なら官房長官番、官房副長官番などと、細かく担当が分かれている。自分の担当する有力政治家に朝から夜までついていると、永田町でいったい何が起きているのか、全体像がよくわからなくなる。そこは、キャップやサブキャップが全体をみるわけだが、夕刊フジでは人数的にそんな取材はとてもできない。新聞やテレビ、雑誌などで情報を集め、ある程度ストーリーを予想して、一般紙では取り上げないような切り口で取材・執筆していく。政治部では味わえないやりがい、面白さを感じたものである。

五輪閉会式でパフォーマンス 安倍首相続投の意欲は

 リオデジャネイロ五輪閉会式での安倍晋三首相の空前のパフォーマンスが話題を呼んでいる。任天堂の人気ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」のマリオに扮し、土管の中から登場した安倍首相。2020年の東京五輪を、首相として迎えたいとの強い意欲の表れだというのである。

 首相のサプライズ登場は、2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(元首相)の発案だったそうだ。賛否両論あるみたいだが、私はこんなパフォーマンスのできるキャラクターの首相は日本では少なかったことからも、肯定的である。

 現在の自民党の党則では、総裁任期は2期6年と規定されており、安倍首相の総裁としての任期は18年9月まで。安倍首相の任期延長に前向きな二階俊博幹事長は、党則の改正あるいは特例による延長について年内にも結論を出したい意向といわれる。

 まずは、安倍首相の続投に支障がないようにしておくということであり、実際にどうなるかは政治情勢の推移によりわからない。安倍首相に大きな失政がなく、支持率も現状程度であれば、東京五輪開催は政権維持の大義名分にはなりえると思う。しかし、ブラジルではリオ五輪を、国家会計の不正操作問題によるルセフ大統領の職務停止中に迎えた。準備不足は目立ったものの、最も懸念されたテロもなく、成功裏に終わったことを考えると、安倍首相で五輪を迎えなければ大きな影響が出るというものではないだろう。

 自民党総裁の任期を延長して、首相を続投するかどうかで思い出すのは、2005年9月に郵政民営化を訴えて行われた衆院選で圧勝した小泉純一郎元首相のケースだ。小泉氏の総裁としての任期は翌年9月に迫っており、自民圧勝を受けて、小泉氏が総裁任期を延長し、首相を続投するとの見方が一部にあった。必ずしも政治を専門とする人ではないが、日本一の実績を持つといっていい著名な評論家は「小泉氏は今回の圧勝で首相を続投するにきまっている」とテレビで断言していた。

 しかし、小泉氏をよく知る政治家やジャーナリストは、圧勝直後から小泉氏の任期延長による続投はないだろうとの見方を示していた。私も、小泉氏が首相になってから取材したことはなかったが、首相就任前の小泉氏を取材した経験は豊富なほうだった。郵政解散・総選挙の時は、大阪で勤務していたが、小泉氏が続投を求めることはないと、容易に確信できた。

 私は安倍首相とは面識が全くないのだが、小泉氏の時のように、その周辺から「続投はない」との声は聞こえてこない。実際にどうなるかは先のこととはいえ、現時点でやはり続投の意欲ありとみてよさそうである。

鈴木英夫監督作品マイベスト5

 大阪・九条のシネ・ヌーヴォで開催されてきた特集上映「生誕百年 映画監督・鈴木英夫の全貌」が19日閉幕する。1990年代に再評価が進んだ鈴木作品。ベテランの映画通でも鈴木作品はほとんど観ていないという人は多い。関西の映画ファンにとっては、貴重な鑑賞機会となり、多くの観客でにぎわった。ひと夏の思い出を残す特集上映であった。

 今回上映されたのは23本。これが現存する上映可能な鈴木作品の全てだという。18日に「やぶにらみニッポン」(1963年)を観て、23本の鑑賞を終えた。鈴木作品のマイベスト5を発表する。

 1位は、鈴木作品の最高傑作と一般的にいわれている「その場所に女ありて」(1962年)である。広告代理店を舞台に、男社会の中で苦悩しながらも果敢に生きていくキャリアウーマンの姿を描いた。司葉子主演。ストーリー、セリフ、登場人物のキャラクターが斬新で、よく出来ていた。2位は三島由紀夫原作の「燈台」(1959年)を挙げたい。美しい継母に、大学生の長男が思慕の念を抱き、一家の平穏が崩れかねない様子をスリリングに描く密室の心理劇であった。3位は、石原慎太郎が特ダネ至上主義の強引な新聞記者役を演じた「危険な英雄」(1957年)だ。リアリティーがあり、痛烈なマスコミ批判映画となっている。

 4位は「黒い画集 第二話 寒流」(1961年)である。松本清張原作で、銀行を舞台としたサスペンスフルな話の展開をみせる作品。主人公の池部良扮する支店長が融資先の料亭の女将と特別な関係になるが、女好きの上司にあたる常務もこの女将に入れあげる。支店長は女将に裏切られ、常務により地方に左遷される。常務は副頭取と派閥抗争を繰り広げており、支店長はこれを利用して報復を試みるが、失敗する。5位は、ちょっと迷ったが「悪の階段」(1965年)としたい。金庫破りに成功し、大金を手にした男4人組。山崎努演じるリーダー格の男が策謀を巡らし、大金の独り占めに成功したかにみえたが、自分の女に足をすくわれる。「黒い画集 第二話 寒流」は新珠三千代、「悪の階段」は団令子のファム・ファタールぶりがそれぞれ魅力的だ。

 総括すると、鈴木英夫の映画はサスペンスの要素が強いものは面白いし、うまい。自分の型にはまれば、センスある優れた作品を生み出す。ラブストーリーや喜劇は一部を除き、くどく、凡庸な内容のものが目立った。作品は深みと力強さにやや欠けるきらいがある。やはり、内容的に、「その場所に女ありて」と「燈台」が突出して良かった。


【鈴木英夫監督作品マイベスト5】
1位=「その場所に女ありて」(1962年 東宝)
2位=「燈台」(1959年 東宝)
3位=「危険な英雄」(1957年 東宝)
4位=「黒い画集 第二話 寒流」(1961年 東宝)
5位=「悪の階段」(1965年 東宝)

プロフィール

Author:佐藤安律
(さとう・やすのり)
1965年生まれ。大阪市立大学法学部卒。産経新聞記者として20年7カ月勤務し、政治部、夕刊フジ、大阪経済部などに所属。政治部では、厚相時代の小泉純一郎元首相、元自民党幹事長の野中広務氏らを担当した。産経新聞の年間連載「こども大変時代」で、取材班としてファイザー医学記事賞優秀賞を受賞。2011年7月末に依願退職して独立。大阪市在住。得意分野は日本映画、政治、医療問題。原稿の依頼などコンタクトはyasunori7373@yahoo.co.jp

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