佐藤安律の「ニュースサイト1045」
元産経新聞記者で「炎のジャーナリスト」が、政治全般と映画(主に日本映画)を中心にマイオピニオンを発信します。あるべきブログの姿をめざして順次内容を刷新しています。2017年6月27日付で「佐藤安律の『映画と政治のブログ』」から名称を変更しました。
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「涙」
 俳優の川津祐介の兄で、木下惠介の薫陶を受けた川頭義郎監督(1926ー1972)。小品ながら、多くの批評家から今も称賛を浴びる彼の代表作である。1956年の松竹大船作品。主人公役に、大映から若尾文子を迎えた。若尾文子にとっては松竹初出演。大阪・九条のシネ・ヌーヴォで上映中の「名画発掘シリーズ」で鑑賞した

 舞台は、木下惠介の故郷である浜松市。若尾文子扮する志津子は、楽器工場で働く工員だ。志津子は、この会社の事務部門に勤務する磯部(石濱朗)と相思相愛の関係にある。しかし、磯部の母と兄が、志津子の家柄を問題にし、結婚を前提とした交際に強く反対している。

 志津子の父・多吉(明石潮)は旅回りの役者で、かつて信用組合の金を使い込んで服役した過去がある。母は父の借金を苦に自殺していた。兄の信也(佐田啓二)は妹思いだが、各地を転々とする風来坊の作業員。志津子は、婿養子となって理髪店を営む叔父・春吉(東野英治郎)の家で育てられてきた。

 磯部は、家柄なんて関係ないと、志津子にアタックするが、志津子は結婚後に父や兄が迷惑をかけるのではないかという不安もあるし、自分を嫌う磯部の身内とうまくやっていける自信がない。そんななか、志津子は、叔父夫婦が勧めるお寺の住職の甥・中井(田村高廣)とお見合いをする。中井は実直で優しそうな好青年だった。帰郷した信也も中井と会って、「この男なら薄幸だった志津子を大事にしてくれる」と安心した。志津子は中井と結婚することを決め、砂丘で磯部に別れを告げた。

 脚本は木下惠介の妹、楠田芳子のオリジナル。撮影は、芳子の夫で、木下映画の名カメラマンだった楠田浩之。音楽は惠介の弟、木下忠司。主要スタッフを木下ファミリーが固め、いい意味でセンチメンタルな内容の松竹大船の王道をいくような作品である。当時の若尾文子はまだ人気アイドル的な存在だが、純粋で不憫で愛らしい志津子役を見事にこなし、この人は本当にうまいなと、感心することしきりだった。

 最高に感動的だったのがラストシーンである。東京で新婚生活を始めた中井と志津子は一時帰省した。地元の祭りが行われており、沿道には多くの人だかりができている。そこに、木製の槍を持った天狗が、子供たちと一緒にやって来た。槍で突いてもらうと、健康に恵まれるという教えがあるそうだ。天狗は、志津子と中井の姿を見つけ、2人のお腹を槍で軽く突き、面の上から涙をふく格好をした。志津子のお腹には新しい命が宿っているらしい。

 人混みから離れて、涙にむせぶ志津子。中井が驚いていると、志津子は「お父さんなの」と言うのだった。天狗は子供たちに群がられてその場から去っていき、エンドマークが出る。一気に目頭が熱くなるパーフェクトな終わり方で、鑑賞後もしばらく余韻に浸った。日本映画史に残るラストシーンと言ってもいいだろう。


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佐藤安律

Author:佐藤安律
(さとう・やすのり)
ジャーナリスト。1965年生まれ。大阪市立大学法学部卒。産経新聞記者として20年7カ月勤務し、政治部、夕刊フジ、大阪経済部などに所属。政治部では、厚相時代の小泉純一郎元首相、元自民党幹事長の野中広務氏らを担当した。産経新聞の年間連載「こども大変時代」で、取材班としてファイザー医学記事賞優秀賞を受賞。2011年8月からフリーランス。大阪市在住。得意分野は政治全般、日本映画、医療問題。原稿の依頼などコンタクトはyasunori7373@yahoo.co.jp

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