佐藤安律の「ニュースサイト1045」
元産経新聞記者で「炎のジャーナリスト」が、政治全般と映画(主に日本映画)を中心にマイオピニオンを発信します。あるべきブログの姿をめざして順次内容を刷新しています。2017年6月27日付で「佐藤安律の『映画と政治のブログ』」から名称を変更しました。
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「無法松の一生」(1958年版)
 稲垣浩監督が1943年に自らメガホンをとった名作のカラーによるリメイク版である。1958年の東宝作品。主演は三船敏郎。戦時中の1943年版は検閲によりカットされた部分があり、稲垣はこの部分を復活させて無念を晴らしたのだという。ベネチア国際映画祭金獅子賞(グランプリ)。キネマ旬報ベスト・テン第7位。大阪・九条のシネ・ヌーヴォで開催中の特集上映「松山善三・高峰秀子~夫婦で歩んだ映画人生」で鑑賞した。

 物語は明治30年の九州・小倉を舞台に始まる。三船演じる人力車夫の「無法松」こと松五郎は、荒くれ者だが、まっすぐで優しい心の持ち主の名物男である。松五郎はけがをした小学生の敏雄を助けたことがきっかけで、敏雄の両親である吉岡陸軍大尉夫妻と懇意になる。しかし、吉岡大尉はまもなく病気で急死し、松五郎は残された吉岡未亡人の良子と敏雄の力となることを喜びとして生きていく。良子役を高峰秀子が演じた。

 松五郎は良子には礼儀をわきまえ、控えめだが、密かに思いを寄せていた。ある夜、松五郎は良子の家を訪ね、告白しようとするが、結局やめる。吉岡大尉の遺影の前で土下座し、頭を抱え、良子に「奥さん、俺の心は汚い。もうお目にかかることはありません」と告げて帰っていく。良子は悲しそうな表情を見せる。告白を期待していたのかもしれない。最も印象に残るシーンだったが、1943年版はこの部分が検閲でカットされたそうである。

 この映画で感動したのは、後半に入ったあたりから、時の流れを表現するために、人力車の車輪が回る映像が何度も出てくることだ。これは、阪東妻三郎主演の白黒の1943年版でも同じで、やはり良かったのだが、カラー版の映像美はインパクトがあって、それだけで胸を打つ。松五郎は小学校に行くのが大好きで、その小学校の前で心臓麻痺により死んでしまうのだが、良子と敏雄との思い出を走馬灯のように駆け巡らせ、車輪が止まって松五郎の死を伝える幻想的な映像の美しさ、迫力には息をのんだ。

 1958年のベネチア国際映画祭の金獅子賞は、「無法松の一生」と、木下惠介監督・田中絹代主演の「楢山節考」のどちらにするかを巡り、審査委員会の討論は、他の賞の選考に要した時間も合わせて異例の長時間に及んだという。事前の予想では「楢山節考」が有力視されていたが、「無法松の一生」が逆転する形となった。その理由はいろいろ言われているが、三船が黒澤明監督の金獅子賞作品「羅生門」(1950年、受賞は翌年)、銀獅子賞作品「七人の侍」(1954年)の主演俳優で、ベネチアでの人気が絶大だったことも大きく貢献したとの見方がある。「無法松の一生」の1958版と「楢山節考」のどちらの作品が好きかと聞かれると、はっきりと答えることができない。両作品とも、映画芸術の素晴らしさに涙を禁じ得ない傑作だ。

 また、1958年版を観ると、山田洋次監督が自らのスタイルを確立した作品といわれる「馬鹿まるだし」(1964年)がいかに隅々にわたって、「無法松の一生」にオマージュを捧げているかがよくわかる。「馬鹿まるだし」でハナ肇が演じる主人公の名前は安五郎で、「無法松」こと松五郎を敬愛している。この松五郎と安五郎から、「男はつらいよ」シリーズの車寅次郎が誕生する流れはぜひ押さえておきたい。

 
 ※参考文献=長部日出雄著「新編 天才監督 木下惠介」(論創社)


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佐藤安律

Author:佐藤安律
(さとう・やすのり)
ジャーナリスト。1965年生まれ。大阪市立大学法学部卒。産経新聞記者として20年7カ月勤務し、政治部、夕刊フジ、大阪経済部などに所属。政治部では、厚相時代の小泉純一郎元首相、元自民党幹事長の野中広務氏らを担当した。産経新聞の年間連載「こども大変時代」で、取材班としてファイザー医学記事賞優秀賞を受賞。2011年8月からフリーランス。大阪市在住。得意分野は政治全般、日本映画、医療問題。原稿の依頼などコンタクトはyasunori7373@yahoo.co.jp

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