「われ一粒の麦なれど」

 日本で猛威を振るっていたポリオ(小児麻痺)の制圧に、門外漢だった中央省庁の平凡な一役人が立ち上がり、メディアや専門家の大学教授らを巻き込み、政府を動かす一大キャンペーンを展開し奮闘する姿を描く。1964年の東京映画作品。監督・脚本は松山善三。キネマ旬報ベスト・テン第10位。大阪・九条のシネ・ヌーヴォで開催中の特集上映「松山善三・高峰秀子~夫婦で歩んだ映画人生」で鑑賞した。

 主人公は、小林桂樹演じる「農政省」の中間管理職の立場にある坂田で、麻雀を趣味とし、パーのホステスを愛人に持つ、取り立てて有能には見えない人物だ。ある日、職場の席に間違い電話で、子供がポリオと診断された母親から悲痛な叫びの声が届いた。これがきっかになり、坂田はポリオに強い関心を持ち、本来の仕事そっちのけで、厚生省の所管分野に踏み込みポリオ制圧に情熱を注ぐ。

 坂田はソ連で成果を上げた生ワクチンを緊急輸入し投与することを訴えるのだが、日本でそれを実施するためには、日本の子供に実際に投与し、問題がないことを確認する必要があった。高峰秀子はこれに悩みながらも協力する良心的な医師役で出演する。

 映画の主人公は、「農政省」の平凡な一役人になっているが、モデルとなったのはNHKポリオキャンペーンの立役者となった上田哲である。当時、上田はNHK社会部記者。その後、日本放送労働組合委員長として絶大な力を持つことで有名になり、社会党の国会議員に転身し左派の論客として活躍する。特に衆院議員時代の上田は、「朝まで生テレビ!」などテレビ出演も多く、土井たか子委員長を誕生させることになった1986年の社会党委員長選挙に勝算を度外視して挑戦するなど、私もその姿は強く印象に残っている。上田は2008年12月に死去した。享年80。

  小林演じる坂田に協力するテレビ局の記者・熊谷(大村崑)が登場するが、坂田と熊谷の2人が上田の分身となっている。キャラクターや登場人物の設定などは松山が創作している。映画は重いテーマだが、小林がユーモアをきかせて好演し、ドラマとしてもそれなりに見応えがある。こういう平凡な中間管理職のような役をやらせると、小林は本当にうまい。この役により、ブルーリボン賞主演男優賞に輝いた。

コメント

非公開コメント

プロフィール

佐藤安律

Author:佐藤安律
(さとう・やすのり)
ジャーナリスト。1965年生まれ。大阪市立大学法学部卒。産経新聞記者として20年7カ月勤務し、政治部、夕刊フジ、大阪経済部などに所属。政治部では、厚相時代の小泉純一郎元首相、元自民党幹事長の野中広務氏らを担当した。産経新聞の年間連載「こども大変時代」で、取材班としてファイザー医学記事賞優秀賞を受賞。2011年8月からフリーランス。大阪市在住。得意分野は政治全般、日本映画、医療問題。原稿の依頼などコンタクトはyasunori7373@yahoo.co.jp

最新記事
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム
最新トラックバック
フリーエリア
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク
QRコード
QR