「猫と庄造と二人のをんな」

 数々の純文学の名作の映画化に取り組み、「文芸映画の巨匠」といわれた豊田四郎(1906-1977)。その豊田の戦後作品の中で、代表作の「夫婦善哉」(1955年)と並び最も評価の高い1本である。1956年の東京映画作品。谷崎潤一郎が自ら経験した三角関係をモチーフに描いた同名小説が原作で、脚本は八住利雄。キネマ旬報ベスト・テン第4位。京都文化博物館で開催中の特集上映「生誕百年記念 映画女優 山田五十鈴2」で鑑賞した。

 主人公の森繁久彌演じる庄造は、芦屋の実家で小さな金物屋を営み、母のおりん(浪花千栄子)と妻の品子(山田五十鈴)と暮らす、ぐうたらで甲斐性のない男である。金物屋もおりんが切り盛りしている。おりんと品子の嫁姑関係は最悪で、ある日、品子はおりんと大喧嘩し、家を追い出される。庄造は2人の間に入って仲を取り持つこともせず、飼い猫のリリーに異常なまでの愛情を注いでいる。

 おりんは、兄の娘、つまり庄造とはいとこの関係にある福子(香川京子)を、庄造の新たな嫁として迎え入れる。福子は気性の激しいはすっぱな現代娘で、多額の持参金付き。おりんはこの持参金が目当てだった。品子は、自分が謀られたことを知って憤慨し、仕返しに乗り出す。品子は、庄造と福子の仲を裂くためには、まずはリリーを庄造から引き離すことだと狙いを定め、結果的に一時成功する。

 谷崎の小説の発表は1936年で、物語の舞台は昭和初期だったが、映画はこれを現代に置き換えた。庶民の愛すべき日常生活の哀歓を喜劇的に描くのを得意とした豊田四郎だが、庄造と先妻、後妻、母の主要登場人物4人の絶妙な関係ややりとりなど、その演出は抜群の冴えを見せた。私は「夫婦善哉」よりも、こちらの作品の方がずっと好みである。清楚で上品なイメージの強い香川京子の、はすっぱな現代娘役が最高に魅力的だった。こんな役も器用にこなすことができる香川京子の実力を改めて認識した。

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プロフィール

佐藤安律

Author:佐藤安律
(さとう・やすのり)
ジャーナリスト。1965年生まれ。大阪市立大学法学部卒。産経新聞記者として20年7カ月勤務し、政治部、夕刊フジ、大阪経済部などに所属。政治部では、厚相時代の小泉純一郎元首相、元自民党幹事長の野中広務氏らを担当した。産経新聞の年間連載「こども大変時代」で、取材班としてファイザー医学記事賞優秀賞を受賞。2011年8月からフリーランス。大阪市在住。得意分野は政治全般、日本映画、医療問題。原稿の依頼などコンタクトはyasunori7373@yahoo.co.jp

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