佐藤安律の「ニュースサイト1045」
元産経新聞記者で「炎のジャーナリスト」が、政治全般と映画(主に日本映画)を中心にマイオピニオンを発信します。あるべきブログの姿をめざして順次内容を刷新しています。2017年6月27日付で「佐藤安律の『映画と政治のブログ』」から名称を変更しました。
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「恍惚の人」
 家庭における認知症高齢者の介護問題にスポットを当て、大反響を呼んだ有吉佐和子の空前のベストセラー小説の映画化で、1973年の芸苑社作品。監督は豊田四郎。認知症が進行し、徘徊などの深刻な周辺症状が現れている84歳・茂造を森繁久彌が演じた。脚本は松山善三。キネマ旬報ベスト・テン第5位。大阪・九条のシネ・ヌーヴォで開催中の特集上映「松山善三・高峰秀子~夫婦で歩んだ映画人生」で鑑賞した。

 映画は、雨天の中、買い物袋を提げて帰宅を急ぐ昭子(高峰秀子)が、傘もささずに人混みの中を歩いている義父の茂造を発見し、一緒に家へ帰るところから始まる。茂造は妻に先立たれるが、この段階で認知症はかなり進行している。茂造は、同居する息子の信利(田村高廣)や、家を出て生活は別にしている娘の京子(乙羽信子)の顔を見ても、もはや誰だかわからない。

 ところが、茂造は、信利の嫁で、もとは他人の昭子のことだけはわかっていて、「昭子さん、昭子さん」と頼りにしてくるのだ。認知症になる前の義父の茂造と昭子の人間関係が良好だったわけではない。昭子は、茂造にいつも意地悪され、優しい言葉ひとつかけてもらったこともなかった。
  
 昭子が、そんな義父の茂造に愛情を持っているはずはないが、認知症が進行し、子供のようになった茂造にただ1人覚えてもらっていて、頼りにされる。昭子は法律事務所に勤務しているが、夜中に茂造に何度も起こされる。夫の信利も介護はすべて昭子任せ。昭子は途中で精神的に参りかかる。それでも、昭子は自分を信頼してくれる茂造に、嫌だった感情が薄れてくる。情が移り、誠心誠意、茂造に接する。

 茂造が死んだあと、茂造が可愛がっていた籠の中の鳥を見て、昭子は涙するのだった。昭子は悔いが残ったようなことも言うのだが、茂造と最後までしっかりと向き合い、看取ったことに、後々まできっと満足感があるはずだ。

 介護をテーマにした映画はいろいろ観たが、介護の大変さ、家庭の深刻な事情をことさら強調しようと、誇張された演出になり、しらけてしまうことがよくある。しかし、この映画は、介護が、される側とする側の信頼関係、魂と魂の触れ合いなのであり、かけがえのない時間を過ごしているのだということをきちんと描いていて、傑出した出来だと思う。もちろん、現実の介護になると、支えることができる家族が何人いるかがまず問題になり、介護期間、症状、職場の理解、金銭的余裕など、個別の事情によって全然違ってくる。

 さすが、「文芸映画の巨匠」といわれた豊田の作品のことだけはある。と、いいたいのだが、高峰が映画評論家の佐藤忠男に語っているところによると、豊田は病気で体調を崩し、撮影現場にいる時間は少なかったそうだ。カメラマンの岡崎宏三と、森繁と高峰の3人で相談して、映画をどんどん撮っていったのだという。クライマックスは雨の中、昭子が買い物に行っている間に、茂造が家を出て徘徊し、昭子が茂造を見つけて抱きしめるシーン。ここは豊田も大事だと思って現場に出てきたそうである。岡崎による白黒映像が実に効果を上げている作品だということも強調しておきたい。


※参考文献=佐藤忠男著「日本映画の巨匠たちⅡ」(学陽書房)





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佐藤安律

Author:佐藤安律
(さとう・やすのり)
ジャーナリスト。1965年生まれ。大阪市立大学法学部卒。産経新聞記者として20年7カ月勤務し、政治部、夕刊フジ、大阪経済部などに所属。政治部では、厚相時代の小泉純一郎元首相、元自民党幹事長の野中広務氏らを担当した。産経新聞の年間連載「こども大変時代」で、取材班としてファイザー医学記事賞優秀賞を受賞。2011年8月からフリーランス。大阪市在住。得意分野は政治全般、日本映画、医療問題。原稿の依頼などコンタクトはyasunori7373@yahoo.co.jp

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